西巴はクスリと笑って、俺と俯く烏丸さんを置いて先に歩いていく。




「か、烏丸さん、先行っちゃったけど……?」






声をかけるけど、依然として俯いたままの烏丸さん。






……もしかして、泣いてる?


烏丸さん、友達いない事気にしてたんじゃない?




女の子が目の前で泣いたのなんか、俺にとっては初めてで、

どうすればいいのか狼狽える。





「烏丸さ「むっかつくー!!」」






………………ん?






「本当に人の心をぐいぐい抉ってくるよね……。橘君、さっき良かったよ!よく言い返した!」






勢い良く顔をあげた烏丸さん。

その目には涙は浮かんでいない。



強いていうなら浮かんでいるのは闘志の炎だ。





「橘君、じゃんじゃん言い返してね?!皆、西巴の家を怖がって学校じゃ誰も反抗しないじゃない。……私、女子を無視する西巴君を見て、何度手をあげそうになったことか……。」







口調は、さっき西巴と話してた時みたいに砕けている。


拳を固く握って熱弁する烏丸さんと、普段の烏丸さんは似ても似つかなくて。





「西巴君だけずるい!女の子と仲良くして……私も女の子の友達欲しい!!」




彼女がそう叫んだ時、俺は悟った。


あ……この子、これが素だ、と。







「烏丸さん……その、口調とか……秘密にしてなくていいの?」




さっきみたいに、うっかり素を出しちゃったのかなと気を遣えば。




「橘君にはさっきの時点でもう見せちゃったし……橘君に友達いないなら大丈夫!」




ニコリ、と笑う。


今まで微笑む烏丸さんは何度も見てきたけれど、これがきっと本当の笑顔。


花が咲くような、幼くて可愛らしい笑顔だった。




てゆーか……


「烏丸さんも西巴と同様俺の心えぐってるよ?!」


「あら、ごめんあそばせ。」




冗談っぽく彼女は言った。