「へぇ……これが吉良の女か。名前は?」


「……初伊です。」



取り敢えず下の名前だけ言っておこう。


初伊なんて名前、他にもいるだろうし、


なんか吉良が隠してるなら言わない方が得策だ。





ぐいっと振り払えない力で南城君に腕を掴まれる。


「えっと……?」


「吉良、連れていくぞ。」


「は?何処にだよ。」


「決まってんだろ、南にだ。」




「ちょ……待って!!」


私の訴えも虚しく、すとんとバイクに乗せられて、ヘルメットを被された。


捕まってろ、という声がして……









ああ、今日は厄日だよ。





彼の配慮か、大分ゆっくりバイクを運転してくれてる。


これなら喋れる。

取り敢えず聖カナンだと伝えよう。







「知ってたか?ここ辺は南にも近いんだぜ?」


「さっき知りました………。」



こんな面倒に巻き込まれるならもう本当に通りたくないよね、あの路地周辺。



「あの、あなたは……?」

「南城 夜白(なんじょう やしろ)。吉良の一個下。」


「南城君、私聖カナンなんです。」

「あ?西凛じゃねーのか?」

「これは不慮の事故です。」

「ふーん。」




南城君は興味なさげに返事をした。


……いや、あのね、聖カナンなんですよ。

東西南北と関わるべからず、有名なんだけど。



聖カナンですって言ったら降ろしてくれると信じてるんだけど!




「……だから聖カナンです。」

「だから、どうした。」

「南城君、東西南北の中央高校への干渉禁止って知ってる?」

「知らねぇな。」



知っとけよ。



「じゃあ今聞いたね。はい、帰ります。」

「降りれるものなら降りればいい。」




そう言って、南城君はバイクのスピードをあげた。