男を吹っ飛ばしてくれた人の顔が月に照らされてよく見えた。

人形のように整った顔には表情がまるでなくて。

でも私は、その人をよく知っている。




作り物みたいに綺麗な顔の、世界で一番大好きだった人。





「き……きら。」



名前を呼ぶと彼はこっちを見てただ一言、大丈夫か、と言った。





「……何で?……何でここにいるの?!」


「夜にこの道通るな。」


「話聞いて?!」





昔からいいたい事をバーっと言って、人の話を
聞かないのは彼の癖。


そんな彼の名前は、烏丸吉良(からすま きら)。


家出中の兄です。


相当長い間、会ってなかったんだよ?


なのに、何でこんなタイミングよくここにいた訳……?



久しぶりに見た吉良の髪は、つややかな黒髪から金髪に変わっていた。


ああ、本当に、ヤンキーになったんだね。





「何でここにいるのかってそりゃG……自意識過剰だ、お前。たまたまだ。」


怖かった……とへなへなと座り込んでしまった私の頭をポンポンと吉良は撫でた。





いつも、吉良に頭を撫でられるのが、好きだった。





懐かしいなぁ、とほっとするのも束の間。


路地の向こうでガシャーンッと大きな音が聞こえる。



「吉良!……高橋君、助けてあげて!!」

「高橋?」



じっと目を細めて向こうを見た吉良は、高橋君の姿を見て、西凛かと呟いた。


……そっか。南だもんね、吉良は。



そんな気持ちが伝わったんだろうか。

はぁ、と吉良は溜息を一つして、



「……いい子で待ってろ。」


と颯爽と路地の向こうへ向かった。




「……何だよお前?!」

「南の……烏丸?!」



大きな衝撃音がして、暫くたって、あたりがしんと静かになる。




東の男達を一瞬で全員ボロボロにした吉良。

向こうから歩いてくる吉良をぼうっと見ていた時だった。



「おい、吉良ぁ。」



酷く威圧感のある声が聞こえたのは。