自動ドアにぶつかりそうな勢いで入口を抜け、ロビーを横切る。エレベーターの隣にある階段を一段飛ばしで駆け上がり三階へ。左側の廊下の一番奥にある扉を、雪姫はノックもせずに開け放った。


「晴流…──っ!?」


 途端に打ちつける強風。思わず閉じた目をゆっくりと開くとそこには予想外の光景が広がっていた。


──広範囲に割られ、跡形もない窓ガラス。


 そこから吹き込む夕方の風と夕陽の朱い光が誰も居なくなった病室をただただ揺らめかせている。


「…ど…して…」


「──雪姫さん…!」


 ようやく追いついた刑事達。病室の中に目を向ければ、悲痛な表情を浮かべる雪姫が居た。


「どうして…どうして晴流はいなくなったんですか…っ?」


 目撃者が現れ、友達の疑いが晴れた。たったそれだけのことだが、これから事件は解決へ向かうと信じて疑わなかったのだろう。


 悲しみを帯びた、叫び。それは雪姫が彼らに初めて見せた激しい動揺の色だった。


「…分かりません。しかし、これだけは言えます。」


 そんな雪姫の様子を気にしながら、しかし鳩山は告げる。


「お兄さんは──自分の意志で脱走を図った。」