ただ、最近掃除をされていないのか、指でテーブルをなぞってみると手にホコリがベッタリ。
誰もいなさそうだけど。
部屋にあったタンスを始め、隅から隅まで人が隠れられそうなところを探すが何も見つからない。
「もしかしたら・・・」
部屋に敷いていた絨毯(じゅうたん)を引っぺがすが下の床は特に何の変哲もないフローリング。
「まあ何にもないとは思っていたけどね」
善明は散らかした物を元に戻し、軽く辺りに不審な物がないことを確認してこの部屋を後にした。
「次はこの部屋か」
次の部屋は先ほどの倍近く広い部屋で、豪華なソファーやきらびやかな装飾で作られた照明器具。
また、厳重に保管されている高級そうなワインや高級食器も綺麗に陳列されていたが、善明は淡々と捜索開始。
「う〜ん。本当に何にも見つからないな」
置いてある家具や配置が違う以外変わった様子はなく、また人影なども感じられない。
「ハァーーー」
善明はさっきみたいに部屋をくまなく調べるが、もちろん変わったとこなどない。
その後、別の部屋も同様に調べるが、探しては何も見つからず、探しては何も見つからずを繰り返して行く。
そうこうしているうちに探すとこはどんどんと減っていき、とうとう残ったのはキッチンだけに。
キッチンには冷蔵庫やコンロ、またパンを焼くかまどを始め、ケーキなどに使う量りなどがあった。
「アレ?これってもしかして・・・」
善明の目に飛び込んできたのは、レトルト食品や缶詰などといった保存食の山。
それと同時にその保存食のゴミがゴミ箱に溢れるほど、大量に捨てられていることに驚かされた。
「まだ新しい。ってことは最近までここに人が・・・」
善明はここに誰かがいると睨んで、一番人が隠れそうな冷蔵庫を勢いよくオープン。
だが、冷蔵庫には保存食がビッシリと入っており、とても人が隠れそうな隙間などない。
「ハズレか・・・。仕方ない矢子のところに行くか」
ガタっ。
善明は冷蔵庫の扉を持ったまま、ゆっくり後ろを振り向くと・・・。
トンタンタンタンタン。
慎重に二階へと上がった矢子。
部屋はたくさんあり、これを一つ一つ調べるのかと思うと考えたら、気が重くなる。
まあゆっくりやろう。
矢子はペンライトの光を頼りに階段から一番近い部屋へ。部屋のドアを開けると中はベッドがあり、ホコリがあること以外は綺麗にされている。
ここは違うかな。
矢子は部屋に入って調べようとせずに次の部屋へ。その後も同じようにざっと見渡す感じで異常がないか調べた。
ここも異常なし。
二階にある全部屋を10分ほどで一通り見終えたが、役に立つようなものはまだ見つかっていない。
「仕方ない」
矢子は渡り廊下でスマートフォンを起動させ、旧約魔法で誰かいるか調べようと目の前には先に引っ掛けるものがついた長い棒が。
その棒を何気なしに手で掴み、上に何かないかと見てみると、天井に取っ手のようなものがあった。
えい!やあ!とう!
棒が長いためか、上手く棒が取っ手に引っ掛からず、悪戦苦闘中。
それから5分以上して、どうにか取っ手に引っ掛けることに成功し、それを勢いよく引いた。
ガタンガタンゴトンガタンゴトン。
天井から屋根裏部屋であろうとこに通じる階段が現れ、矢子はその部屋をペンライトを当てる。
「誰かいますか〜?」
その問いかけに返事はなかったが、何やら動く音らしき音が聞こえた。
矢子は慎重に一歩一歩天井に続く階段に上がると、部屋には誰かが物影に隠れて怯えていた。
「あの〜あなたは町長さんですか?」
「・・・・・」
「もしもし、聞こえますか?」
「・・・・・」
「聞こえたら返事もらえます?」
「・・・・・」
相手からは何の返事もなく、矢子はだんだんとイライラしだした。その後何回も声を掛けるが、相手からは返答がない。
それならばと矢子はその相手に近づき、直接相手の身体を掴んで揺らした。
「もしもし、聞こえますかーー!」
相手は観念したのか、恐る恐る振り向くと怯えているのがわかるほど身体は震え、親指の爪を噛むシルエット。しかし、暗いため顔がハッキリせず、誰かは確認出来ない。
「あなたがこの街の町長さん?」
「ち、違います」
「違う?ならあなたは誰なの?こんなとこで何してるの?」
「・・・・・」
「質問に答えて!!」
ストレスがピークに来ている矢子は家中に響くくらいの大きな声に、相手の身体はこう着状態に。
「もう・・・、うん?アレって」
部屋の片隅には何やら四角い形の物が。確かめてみるとそこにはガーダーン美術館にあった青年の絵に似ており、女性と家が描かれている。
「よし、多分これでしょう」
矢子はその絵を抱え、屋根裏部屋にいた人物を一階に連れて行こうとした。
シュッ。
屋根裏部屋にいたその人物はどこかに隠していた霧吹きみたいなものを矢子に吹きかけた。
と、矢子は突然眠気に襲われ、その場へ倒れこんだ。それを確認した相手は、一目散にその場から逃げ、矢子はその場に眠り込んだ。
それから幾分が経過したのだろうか。矢子はゆっくりと目を覚まし、身体を起こし、ボーとした頭で周囲を見渡す。
「・・・、わたし、寝てたんだ。あ、絵は!?」
目をキョロキョロ動かし、目の前に裏返しに倒れた額縁があることに気づく。それを引き起こすとあの絵が。
おーい矢子!!どこにいるの?
下の二階から聞き覚えのある声、そう善明が下から叫んでいた。それを聞いた矢子は返事を返し、絵を持って下の二階へ。
「やっぱりそこにいたんだ」
「あ、うん。どうして二階に?」
「どうしてって、約束の一時間をとっくに過ぎているの気づかなかった?」
「え?一時間も」
スマートフォンの時計を確認すると、時間はあれから結構経っており、それを見て、思わず驚愕。
ガッハハハ。
善明の後ろから聞きなれない声が。
そこには50代くらいの小太りの男がおり、暑いのか扇子をパタパタと扇ぎ、どことなく偉そうな態度をしている。
「いやーー、見つかってよかったよ。ガハハ」
「えっと、どちら様です」
「ワシかい?ワシはこの街の町長をしているトーマスだ」
「トーマスさん・・・・・、あなたが私を眠らせたんですか?」
「眠らす?何の話しだ?」
トーマスは真顔で何を言っているのだと言わんばかりの顔をしていた。
「オレとトーマスさんはずっと一緒にいたよ?さっきまでキッチンで燻製(くんせい)したハムを食べてたし」
善明は矢子に説明をした。
「本当?それじゃああの人は・・・」
「あの人?他に誰かいたの?」
「う、うん。何か眠らされちゃって。そうだ!絵を発見したよ」
「あったの?トーマスさんも知らないって言っていたのに」
屋根裏部屋にあった絵を善明に見せると、更に驚いた声を出した。
横で見ていたトーマスはその絵を見て、あることを思い出した。
「そうだそうだ思い出した。確か家政婦誰かが屋根裏部屋を使いたいから、そのお礼にと絵をもらったって言っていたよ」
「トーマスさん、もしかしてその人って気弱そうな人物ではなかったですか?」
「さあどうだったかな?町長の仕事で忙しいんで、家のことは家政婦に一任してあるんでね」
「そうですか。ところでトーマスさんは何故避難しなかったのですか?」
「お昼寝を・・・ちょっとね」
「・・・とりあえずガーダーン美術館に行きましょうか?」
トーマスと善明は首を縦に振り、三人は町長の家を出るのであった。