「日本語しゃべれるんだから、なんとか言ったら? あんたがいると、邪魔だって言ってんの!」


いつまでも黙っている私を苛立たしげに睨みつけて、肩を掴む手の力を強めてきたけれど、それでも声を出すことはできなかった。

彼女は私の……、“周防マリア”としての声を知っているから。

もしここで暁さんに言葉を返したりしたら、気づかれてしまうかもしれない。

そう思えば、声を出さないようにとグッと奥歯を噛み締めて、諦めてくれるのを待つしかなかったのだけれど。


「それとも、一般庶民の私とは話をしたくもないのかしら?」


そう簡単に、彼女が諦めてくれるはずもなく……


「イギリスの貴族だかなんだか知らないけど、当然のように結城さんの隣にいるのがあんたみたいな女だなんて、ほんとムカつく!」


心の内を吐き出すように語気を強めて、ますますヒートアップしていく。


「あの、総長……」


そんな私たちの様子を固唾を呑んで伺っていた美代さんが、申し訳なさそうに声を掛けてくれば


「なんだよ!」


それに答えて、私に向けていた視線を彼女へと向ける暁さん。


「誰かが、こっちに向かって来てるみたいなんですけど」


その視線に振り向くことなく、美代さんはドアの向こう側に耳を澄ませていた。