「……一人で大丈夫だから」

 私は、上村の腕をそっと外すと、しっかりと上村の目を見て微笑んだ。

「心配してくれてありがとう。私は大丈夫」

「先輩……」

「行くね」

 私は、ちょうど出勤してきた部長に事情を告げると、今度こそオアシス部を飛び出した。

 出勤時間で混んでいるエレベーターを避け、階段を一気に駆け下りる。

 玄関ホールに下り、まだ出勤してきたばかりの社員たちの間を走り抜けた。

 早く、母さんのもとへ行かなきゃ。そのことばかりが、頭の中を巡っている。

 私は会社を出ると、ちょうど来たタクシーに飛び乗った。