「上村……?」

 問いかけても、答えない。

 微かに震える肩に、伏せた睫に、物言わぬ唇に、閉じ込めていた愛しさが込み上げた。


 
 ――それで、あなたが楽になるのなら……。

 
 上村の頬に手を伸ばし、今度は私から口付けた。

 両手で頬を包み込み、額に、目蓋に、そっとキスを落とす。

 唇を離すと、驚いた表情の上村と目が合った。
 
「外は、雪よ」

 私の言葉に、上村は怪訝そうに眉をひそめる。

「何も、聞こえないでしょう?」

 今夜は、通りを行く車の音も、真夜中に響く足音も、どれも聞こえない。

 降り積もる雪は全てをその中に閉じ込めてしまう。

 私は笑みを零し、もう一度彼の頬に手を伸ばした。

「朝になれば、きっと世界は真っ白に変わってる」

 大丈夫、私がずっと側にいるからとあなたに言えたならいいのに。

 ……でもそれは私の役割じゃない。