「お姉ちゃん、こんにちはーっ!」
「あっ…あの時の。…こんにちはっ。」
…大会が近いと言うのに部活も出ずにあたしがやって来たのは…もちろんいつもの公園。透くんが入院してからというもの、一週間ずっと来ていなかったから何となく懐かしさすら感じる。…だけど、いつものベンチの隣に透くんはいない。
花奏は学校が終わってすぐに病院に向かった。何かあったら連絡をくれることになっている。そして今声をかけて来た小さな女の子は…いつだったか、透くんがボールを拾って渡してあげていたあの子だ。遠くの方でお父さんとお母さんと思われる人達が並んで座っているのが見える。
「お姉ちゃぁん…今日、お兄ちゃんはー?」
「お兄ちゃんの事、覚えてたんだね。」
「うん!ボール拾ってくれた優しくてかっこいいお兄ちゃん!お姉ちゃんの事も覚えてるよーっ!」
「ふふっ…そっかぁ。」
女の子の頭を撫でてあげると嬉しそうにニコニコしていた。…あたしもこうして透くんに撫でてもらえなくなって、もう一週間が経つ。そして…もうすぐそれが二度としてもらえなくなるかもしれない。
「…お兄ちゃんはね、今お医者さんにいるんだよ。」
「えーっ!お医者さん!?どこかお怪我してるのー?」
「…うん、お怪我しちゃったんだ。」
そう言って女の子を隣のベンチに座らせてあげた。
「えへへっ、お兄ちゃんの席取っちゃった〜。」
「…お兄ちゃんなら許してくれるよ。」
「そうだよねっ!お兄ちゃん優しいもんっ!」
無邪気に笑う女の子を見てあたしは少し表情が緩んだ。