「失礼します。かんなさん、少々お借りします。」
付け回しの黒服が、私のことを呼びに来る。
「お、今日も忙しそうだな、がんばって来いよ!」
「うん、ありがとう。ちょっとだけ行ってきます。」
ものの10分ほどしか、このお客様の席についていない。
指名が被ると、容赦無くお呼びがかかってしまう。
この店のNo.1。
この座を頂くのは、今考えたら当たり前かもしれない。
私には、これしかなかったんだから。
日曜日の店休以外は、常にお店に出勤していた。
たくさんフリーのお客様にも付かせてもらった。
指名をもらうチャンスは、腐る程あったから。
そう。
私には彼氏も居なかった。
だから、無理矢理ウソをつく必要もなかったから…