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彼女はイライラしていた。


受験に失敗して大学院を浪人し、仕方なく就職活動をしようと時すでに遅し。

夜の予備校に通いながらでは高い収入のバイトもできず、困っていた所に見つけた仕事だった。


家庭教師という職業は、最初は楽しかった。


だけど、自分を置いて現役で合格した子や無事に大手企業に就職した子。

脳裏をかすめるのはそればかり。

彼女の高いプライドは傷ついて、無性に苛立った。


そんな彼女にとって、生徒は八つ当たりの対象だった。


自分より年齢も学力も下な生徒に安心し、傷つけて楽しんだ。

大人げない行動はすぐにバレ、保護者に怒られ給料は減らされた。


面白くない。


加えて彼氏は浮気し、それが大学院に入学した子だという事実が判明したからなおのこと。



そこに、変な生徒が現れた。



ハーフらしい彼女は豪邸に住んでいて、部屋から一歩も出ない引きこもり。

家庭教師をつける理由も、大学を受験するわけではなく、学校に通っていないから。


ふわふわふわふわ。


世間の汚さ苦しみに、我関せずとふわふわした生徒に、彼女のイライラは増した。


保護者もいないし、使用人は近寄ろうとしないし。


密室の中、二人――


試しに罵ってみると、悲しそうな顔をした。