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カサンデュールという国がある。

日本はおろか世界でもほとんど知られる事はない、謎に満ちた国だ。


綿と穀物が盛んな穏和で緑豊かな地。


タラック教というなんの宗教にも属さない特殊は宗教を信仰し、独特の文化を持つ。


その国には4人の王女がいた。


ルイ・ヒューアンスの兄がその第二王位継承者と結婚したおかげで、彼の生活は変わった。


もともと名のある名家の生まれだったが、王族の部類に入ったおかげで、王族の代表として各国を回るようになった。


その一環としてきた日本に落ち着いてしまって、現在に至るわけである。



「…日本に自分がいてこれほど良かったと思ったことはございませんよ」


ため息を吐きながら、目の前でニコニコ笑んでいる姫を見やる。


リル・ドリュール。

正真正銘、カサンデュールの第三王位継承者である。

きらめくような金髪に、カサンデュールの宝と称される美貌。

性格は多少活発な所もあるも、上品で凜としていて、国家一の平和主義と謳われる心の優しさをもつ。


「わたくしも、日本にいらっしゃるのがルイさんでよかったと心から思ってます」


「他の方一一例えば私の父だったりしたら、即刻国に帰されてますよ」

「まあ…なんと恐ろしい。融通のきくルイさんで本当に良かったです」


そう、彼女は今お忍びで日本に来ているのだ。


おかげで国中大慌て。


『ちょっと疲れました。ティンを連れて、旅に出てきます。探さないで』とだけ書かれた紙が寝室から見つかった以外、なんの手がかりもない姫の失踪。


彼女の姉や側近達にも知られていない『旅』に、誘拐の線も騒がれたほどだ。