◇◇◇
ルイはイラつきながら、黒塗りの車を屋敷の前の玄関で出迎える。
いつも会社に行くのに乗っている、野崎が同行している車だ。
今回はある人を迎えに行くのに使用した。
野崎は脇に控え、焦点の合わない目で呆然としている。
「…野崎」
「だだだだいじょうぶです。冷静です。きちんとカサンデュールの言語の復習もしましたし」
いつものスーツ姿で、すっかり冷静さを失っている。
そう、仕事がらみの人物なのだ。
「カサンデュールで信仰されているタラック教の復習もしてきましたっ…」
「ご苦労さま…だけど相手は日本語使えるから、カサンデュール語の復習はいらないかな」
「えぇっ…!に、日本語を話されるんですか?さすがです…聡明であらされる…」
「いや、日本に昔すんでたみたいだから」
「えぇえっ…!日本に昔住まれてた!?なんと…まあ…」
大袈裟に仰け反る野崎に、ため息をつく。
…正直、嫌な客である。
カサンデュールを国ごとひっくり返しかねない大人物が来るなんて。
頼みの野崎もこのさまだし、なにしろ相手の性格が大変なのだ。
飄々として、マイペースで、それでいて恐ろしい。
「…ああ…車がとまってしまった…」
「どうしよっ…!きゃあっ」
急いで佇まいを整えた野崎が、シャキッと背に棒を入れたように正した。