――しばらくして業者が来て、必要な荷物をトラックに積んでいった。
行き先は空港、一足先に新居に運ばれる。
不必要なものはすべて明け渡すか売るかする予定が決まっている。
あっという間にものが消えた。
空っぽになった部屋を見て、メイは5年前を思い出した。
ルコーラに捨てられてからずっとここにいた。
全部、自分好みに変えてくれた部屋。
一緒に映画を見たり、勉強をしたり。
いつだってこの部屋は、安心で幸せで。
「……ルイ」
ご主人さまと呼ばなくなったのは、戸籍がなくなったからだ。
彼は赤の他人、大旦那の子供ではないのだ。
「メイをこの部屋に閉じ込めてくれて、ありがとうございます。
こんなに幸せな異常はなかったです」
普通ではない、頭のおかしい環境。
成長期の5年間すべてをこの部屋で過ごしたメイは、たくさんのものを手に入れることなく過ごしてきた。
青春と人が呼ぶものおおよそを、この部屋で無くしてきた。
けれども、とメイは思う。
気がついたときには空っぽで、何も無かったと悲しんだメイだったが――異常だからこそ手に入れたものがあった。