「おはようございます、ルイさま」
「ああ、おはよう」
白い石膏でできた廊下を進んでいると、メイドと出会った。
白いシャツに、ワインレッドの長いドレスのようなゆったりとしたスカート。
これがここのメイドの制服である。
上質な絹と、ガラス細工。
また、小麦の輸出で賄っている国であるカサンデュール。
絹を用いた、袖もととスカートがゆったりとした洋服――カムイルが伝統服だ。
袖もとがゆったりしているそれは、メイドが身につけるのには少々不便だ。
だからカムイルとは少しだけ衣装を変えている。
「昨日はありがとう。メイを助けてくれたのは君だろう?」
朝から爽やかにお礼を言う主人に、日本人の彼女は真っ赤になって頭を下げた。
「いえ!ルイさまから、メイさまがああなられた時のための対処法を教えられていたので…
全く使われない内線が鳴ったのには驚きました!」
無邪気に笑うメイドには、訳があった。
(うっわ〜!オウジサマにお礼言われてるぅ…!)
この屋敷に仕えるものは皆日本人である。
彼女らは『どっかの国の何かのお偉いお坊っちゃま』としか認識がない。
『どっかの国』が何なのか、『何かのお偉い』とは何なのか。
誰もそれを知らない。
ただ、日常生活や接待などを世話するだけが仕事なのである。