『ところで、何があったのか教えていただいても良いでしょうか』


「……」


必ず、来るとは思っていた。

彼女はそういうことは聞く人だ。


「…あの、えと、なんて言ったらいいのかわからないんですけど、限界が来たっていうか…」

瑠璃をちらりと見れば、琅玕にブラッシングをしていた。聞いていないようだ。



「……リルちゃん……メイ、ご主人様が好きになっちゃったんです」


『……ほお』

「でね、わすれなきゃって思って」


少しの間、そして。


『え?なんでですか?』


「それがね……野崎さんが、だめって。あの、ご主人様に好きって言っちゃダメって。

メイ、それって忘れろってことだと思ってね。
がんばったんだけど……ぜんぜん、だめだったです」


どんどん大きくなる感情。どうしたらいいのかわからなかった。


「メイ、このままずっとご主人様のもとにいるのかと思ったら、すごく怖くなって……お兄ちゃんのとこ帰ろうと思って」


『メイちゃん、落ち着いてください』


涙目になっていく彼女にビビったリルは、必死に言葉を探す。


きっと野崎の言ったことは、ルイもメイも守るための苦肉の言葉だったはずだ。

兄弟間である彼らは結ばれてはきっと辛い目にあうと思って、良かれと思ってやったこと。



野崎には他意はおろか悪意もない。



すべて、このややこしい現場を作ったルコーラが悪いのだ。

それを黙っていたルイも悪いが。