「部屋に内線があって、普段は使用しないんだが――メイはそれを使って使用人を呼んで、薬を飲んで落ち着いたらしい。
かけつけた時にはすやすや眠っていた」
「いつそんな電話が…」
ずっとそばにいた野崎も、そんな電話に気がつかなかった。
気がつけば理由を問い、もっと早くメイの下に行くように言ったのに。
「トイレに行った際に使用人から電話があるのに気づいてな」
「ああ…そういえば一回トイレに立たれましたね」
午前中に一回、トイレに立ったのを思い出した。
その帰りもさほど慌てた様子もなく、野崎に「昼、二時間ほど出掛けてくる」と言っただけだったのだが。
「その足で家庭教師の家を調べて向かった。
丁度、メイの部屋に荷物を忘れていたから、届けるついでにちょっと話をしただけだ。
大方、過呼吸のメイを見てビビったのだろう」
「話とは…?」
つい、野崎は聞いてしまった。
怒りに燃えている彼がどのように相手を戒めたのかが、気になったのだ。
「聞きたいか?」
勝ち誇ったように笑う彼に、思わず背筋が凍る。
固まった彼女にも愉快そうに笑いながら、彼は口を開いた。