◇◇◇


午前三時。
ここでも女の子が泣いていた。


ホテルのスウィートルーム。

その寝台は二つに分かれてたはずなのに、一つに繋がっていた。


「ああもう、無理すんなって言ったのに」

「……ごめんなさい」


薄暗い部屋でも、輝く金髪を撫でる。

ミルクティーの髪色をした少年が、少女を寝転びながら抱きしめていた。

少女は少年を心の底から信頼しているようで、きつくきつく抱きついていた。


「あなたの言うとおりです、過去のことなんか話すんじゃなかった」

「……たく、まあメイちゃんのこと聞いた手前…っていう気持ちはわかるけどな、こーなんのわかってんだろーが」

「うぅ……あ、ちょっと…!離れないでください、また泣きますよ」

「やめろ、脅すな…ほら」


背中に手を回して、密着させる。

嬉しそうにそれを受け入れた少女に、ため息をついた。



さきほどまで、彼女は過呼吸を起こし、そのままずっと泣いていた。


ようやく落ち着いたと思ったらこれ、甘甘モードとでもいうべきか。

何事も無かったかのようにリルはルイたちに過去のことを話したが、それは人前でのみの態度だ。

彼女の中では立派なトラウマとなっていて、こうして二人きりになった途端に表面はあっけなく崩れる。

日本に来たばかりのときは毎日泣いていてた。
それを危惧していたリルがベッドを一緒にすると言って、ルイにひどい誤解を与えていた。


「……メイちゃん、大丈夫でしょうか…」

「衝撃だったな、あの話」

「可哀想に、辛かったでしょうね……どちらも」


そういうリルの顔が、なにやら考え込んでいる。

嫌な予感がして、ティンは思わず聞いた。

「……おいリル、お前なんかよくねー事考えてんだろ」

「あら、そんなことないですわ。私が考えてるのはとても平和なシナリオです」

「あっそ」


信じてない声でわざとそう返した。


「……お前はそんなことより自分のことを考えろよ」

「わかってますよ、考えてます。きちんと」


「お前は今自分を囮に敵とろうとしてんだぞ、忘れんな」