部屋についているシャワー室ではなく、メイの部屋の浴室に連れていくことにした。

浴槽に浸からせた方が落ち着くと思ったからだ。


途中、廊下で待機していた高遠が話しかけてきたが、事態を察して下がった。

メイはずっと俯いたままだった。


浴槽に入ったメイがかのいちばんにしたことは、体を洗うことだった。

当然だろう、気持ち悪いに決まってる。

お湯を溜めながら、野崎も体を洗うのを手伝った。

赤い跡がそこら中についている。

白い肌だから、よく目立った。



「メイさん、あんまり強くこすると……」

無言で、キスマークのついているところをこする。

あまりの強さに真っ赤になっている。

……どれが跡かわからなくさせるため、とはすぐにわかった。

けれどまた別の傷がつくのは、よろしくない。

すぐに野崎がメイの体を洗うのを変わった。

最初は拒否したが、受け入れてくれた。

首のあたりは真っ赤になったが、下半身から下は野崎が丁寧に洗ったので無事だった。

キスマークは足までついていたが、見て見ぬふりをした。



「………」

浴槽に浸かったメイは、まだ黙りこくっていた。

なんて言葉をかけたらいいのかわからない。

「メイさん…」

大丈夫、とか、あいつむかつくね、とか。

どれも安っぽいものに思えて、困った。


「……野崎さん…あのね、」


メイが俯きながら話しかけてくれた。

安堵しながら、耳を凝らして聞く。



「メイ、ずっと考えてたんです」


ぽつりと、消えそうな声だった。

「いつも何があったか忘れるのに、どうして一番消えて欲しいことが消えないんだろうって」


それは野崎も疑問だった。

消してやりたい、消してなかったことになる訳では無いが、できることなら忘れさせてやりたい。

これだけ覚えてるなんて、神様はなんて残酷なんだろうと。



「忘れたくないんだと思うんです」


「え?」