彼女はミスを犯した。
屋敷を逃げる際、所持品を部屋に置いてきてしまったのだ。
教材は別に良いが、携帯や財布は困る。
あぁやってしまった、と気づいたのは、家庭教師の事務所についてからだった。
「なんで手ぶらなの?」
「…うるさい」
高遠に言われて気づくなんて。
彼女の不機嫌度は増した。
彼女の机から椅子を引いて、かたんとすわる。
すると高遠がコーヒーを出してきた。
彼女はイラつきながらもそれを一口。
皮肉にも美味しいせいか、余計に心が落ち着かなかった。
「…何?まだ不機嫌なの?」
事務所には高遠と彼女しかいなかった。
そのせいか声がよく聞こえる。
事務長室に行けば事務長はいるが、部屋には二人きり。
あぁ気分が悪い、とため息をついた。
「悪かったって。落ち込んでるお前どうすればいいかわかんなくて、そしたら魔がさしたってゆーか…」
「それは浮気の原因?」