驚いていると、ティンが口を挟んだ。


「リルはさ、長いこと日本にいて、交流のなかったルイさんを信用してなかったんですよ。このことを話して、ルコーラに告げ口でもされたら終わっちまう、だから、最後の最後まで疑ってんです」

いくら忠誠を誓おうが、父親のいう通りに動く人物かもしれない。

それでもリルは家出先に彼の家を頼った。

他になかったからといえばそうなるが、試したかったからでもある。

「エルナリーゼさんの息子さんなだけある。素晴らしい志をお持ちで……疑った私が恥ずかしいです」

その志はリルに向けたものではないが。

向かった先のメイは、リルにぞっこんである。矛先が軌道修正すれば迷うことなくこちらにつくだろう。

友情を使った人質である。


「私同様、ルコーラさんもあなたを信用してなかったようです。一切暗殺のことは言いませんでしたでしょう?彼は、そういう人物です」

「…………」

視線を落とす。

信用されたいわけでも認められたい訳でもないが、息子という地位をフル活用できてなかった自分が恥ずかしかった。

そのことを一言でもルコーラから聞いていれば、リルをもっと万全な体制で守ったのに。


「さて、話を戻しましょう。

彼は間違いなく、今夜か明日にでも来ます。私を殺しに」

「リル様、警備はどのくらいまで厚くすれば良いでしょうか?あまり公にするとホテル側に怪しまれ…」

「あ、いりません」

即答だった。

「どうせ向こうは日本から雇ったアマチュアの殺し屋や暴力団組織あたりを二三人つれて来る程度でしょうから、そんな警備は必要ないです。そのお金でメイちゃんにあまいものを買ってあげたほうがずっといい」

「いやしかし……リル様が殺されては」

「彼が守ってくれるので大丈夫です」


まさかここで惚気が出るとは思わなかった。

頼もしそうにティンを見つめるリルをあんぐりと口を開けてみてしまった。