◇◇◇

彼女のいうシナリオは、過去の払拭でもあった。


「彼は、ルコーラは一一きっと今夜か明日にでもこの部屋に来るでしょう」


「え?な、なんで……そんな早く?」


野崎が驚いて声を出す。

「メイちゃんが拉致されたことに危機を感じたあなたが、私たちを遠くに隠したりしないようにです」

「……!」

そうだ。
メイの居所が割れてるのなら、リルの居場所か、割れていても何ら不思議はない。

「でも、居場所がわかってるなら……なんで社長に言わないんですか?だって彼はあなたを探しに来たんです、隠してた社長を叱責するのでは……」

「まあ、それは嘘ですわ」


あっさりと否定された。

「彼が日本に来た目的は単純、逃げた私を追って一一殺すためですから」

「一一殺す?」


ルイが目を見開いて、あっと声をあげた。


「…強引に日本に来たのはそのためか」

「自分で言うのはなんですが、私は王位継承者の中で人気ナンバーワンです。ルコーラさんは息子さんお姉様によこしてます、私が継いでしまっては、不都合でしょう」


カサンデュールの王位は、投票で決まる。

嫡男だろうが末娘だろうが、一番人柄の優れたものがなる神聖なものだ。

国民も大臣もすべて平等な一票で決まるのだ。

人気があるということは、王位に近いということ。

ルコーラからしてみれは、リルは邪魔だろう。


「お母様の次は私を。単純な話です」


「リル様…」

微笑みながらいうには、酷く残酷だった。


「だから周りのものは内々に私が逃げることを許可しました。家出先に日本を選んだのは……そうですね、いきなり分かれることになった友人に会いたかったからです」

ねー?とティンに話しかけ、ぷいっとそっぽを向いた。

「しかし……それなら、なぜ相談してくださらなかったのですかっ」


「ごめんなさい、確信がありませんでしたの」


申し訳なさそうに頭を下げる。