「父がメイを愛してた一番の理由は、髪の色でした」
「髪?」
「リンカーングリーンの髪の色は母にそっくりだったんです。その髪の毛を伸ばして一つにくくると、母に似ていた。
操り人形の彼女を哀れんだ僕は、兄と一緒に彼女の髪の毛を切ってみました」
「……まあ」
「すると父は激怒して、操り人形でないものはいらない、用無しだと……メイを捨てました」
「ひどい…」
「孤児院に帰る寸前、メイを奪いました」
「……ルイさん」
「なんでしょうか」
「あなたはメイちゃんが欲しくて髪の毛を切ったのですか?」
微笑はなく、怒ったように。
ルイは少し悩んで、答えた。
こうなることは分かってた。
けれど、それは欲しかったからではない。
「…リル様、当時のメイはそれはひどい扱いを受けてたのですよ。
個性を捨てさせられ、ただ母に近づくための教育を受けていた。兄とともに救いたいと願い、した結果がこれなのです。
ただ一概に欲しくてやった訳ではありません」
バツが悪そうな顔をしながら、それでも彼は後悔していないと言った。
「…………もう二度とそんなことをしてはいけませんよ。あなたは父親と同じことをしています」
「……わかってます」
欲しいものは何が何でも。
父親と同じ道を歩むことは許さないと、リルは目で語っていた。
「僕は彼女を屋敷の再奥に半ば監禁のような形で隠していました。
しかし父が帰ってきたので、この野崎のマンションに置いていました」
「……それで?」
「しかし、先ほどマンションへ行ったら一一メイの姿はありませんでした。犯人は父と思われます」
「なっ!姿はなかったってっ……!」
「連れ去られたメイを取り戻すためには、姫の援助が必要なのです」
「連れ去られたというか、元ある鞘に戻ったというか……」
声を荒らげたティンとは対照的に、つぶやくように訂正して背もたれに身を沈めたリル。
そしてしばらく目を閉じて、いきなりその紅の瞳を開いた。