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ルコーラが来てから3日経ったある日のことである。
使用人は、退職届を使用人頭に渡していた。
話があると呼び出されたのできてみればこれだ。驚いてため息が出た。
「…なんで?」
「ごめんなさい」
「謝罪じゃなくて、理由を聞いてるのよ」
「……」
その使用人は、この間いち早く最奥の姫の異常に気付き、駆けつけた女だ。
その他にもどうやら主人たるルイに良い働きをしたらしく、ルイのお気に入りである。
ことある事に彼女に話しかけ、楽しそうに話をしている。
周りとも仲良くやっていて充実していたようだし、彼女が辞める理由を知りたかった。
知って、止めたかった。
「住み込みで働いてるのはそりゃあ大変でしょうけれど…いきなり辞めるなんて、理由は一体何なの?」
「……ごめんなさい」
彼女は、住む込みだ。
住み込みは数少ないから、こちらとして
は急に抜けられてはこまるのだ。
「できれば、その、進藤さんもお早めに辞めた方が良いかと思います……」
消え入りそうな声でそう言うので、耳を疑った。
「な、何を言ってるの?」
「あの、1ヶ月はここにいるつもりなので、安心してください」
「そうじゃなくて…… 」
「進藤さんたちには大変お世話になりました。苦渋の決断です、引き止めないでください」
話が噛み合わない。
使用人頭こと進藤は、その話をしたいのではないのだ。
さっき言った、早く辞めろの意味が知りたい。
「あ、大旦那さまのお部屋にシーツを引いてなかったので、急いで戻りますねっ」
「ちょ、ちょっと一一高遠さん!」
いそいそと去っていく使用人を、進藤は唖然と見つめた。
さっき言われた言葉が、やけに重く残っていた。