それから久しぶりに航くんに会った。
スーパーはマズイので私の家で。
それを見られたらスーパーで見られるよりまずいだろうけど…そこなら出入りの時だけ気を付ければ大丈夫、と私は自分に言い訳をした。




「ごめんね、最近一緒に買い物行けなくて。
私別の高校でも授業することになってそれの…手続きやらなんやらで忙しくなっちゃったの。」

航くんは部屋に入ってからずっと下を向いて沈んでいる。

「あ、あ、ごめんね。
あの…それで、もう一緒に買い物できなくなっちゃったの…
あ、でも家ならたまになら、ね、会えるから」

「ゆうさん、家の方が、まずいんじゃないですか?」

え、声が出なかった。
何を言っているの。

「おれたちのことが、誤解されて。
ゆうさんは悪くないのに、俺のせいで学校、授業減らされて、それでもう一校にも行かなきゃいけなくなったんじゃないですか?」

「な、そ、そんな…」

「おれ、友達が、ゆうさんの高校いるから、全部、聞いてるんですよね…」

航くんは凄く凄く、寂しそうな顔をした。そして突然膝を床に落として、手を床についた。

「ごめんなさい。
俺の身勝手で、ゆうさんをこんなことにして。もう…」

私はその先を聞きたくなかった。
やめて、それ以上言わないで。お願い。

「…おれ、もうゆうさんに会いません。
家にも来ません。スーパーにも、行きません。連絡だって、連絡先消します。
ゆうさんの前から、消えます。」

ごめんなさい、そう言って航くんは荷物を持って、部屋から出て行こうとした。
本当は、私が取るべき行動は、そのまま航くんを外に出し、さよならって、微笑むことだった。けど、体は言うことを聞かない。思うよりも先に体が動いた。


航くんの前に私は両手を伸ばして立ちはだかる。

「なんですか、ゆうさん。」

声が出ない。大切な言葉は、気持ちは、喉まででかかって、止まっている。

「おれ。もう、行きますよ。」

「待って」

自分で思ってたより3倍は大きい声が出た。

航くんが私のことをまっすぐみる。
もし今、お別れしたら、もう航くんがこうやって私を見ることはなくなる。
航くんが見る相手は、私じゃなくなる。

「い、行かないで。
…わたるくんの、ことが…好きで…
…先生と、生徒だから…学校違うって言っても良くないのも、分かってる…
…でも、どうしても、わたるくんといっしょに、いたくて…」

気が付いたら私は泣いてた。泣きながら航くんに言う。気持ちを。思ってること全部。

「航くんが、これから先、私と一緒じゃない方がいいこと、いいとき、たくさんあると思うのに…そんなこと、わかってるのに…
…航くんが好きって言って笑いかける相手は私がいい。航くんが誰かのために努力する時、相手は私がいい。私っ…」