「それ、気にいったのか?」
「うん」
「それ、別に記念日でも何でもないのに撮ったんだ」
え?
「ただ、フラッと店にきて撮ったんだ」
なんだろう。日常の一枚を切り取ったような
すごく温かみがあって、目が離せない
「すごい」
「ああ、そうだな」
きっと、こんな日常が沢山あるはずだ
あるはずなのに
今まで気づかなかった
「小さな幸せってヤツだな」
「……へえ」
隣の写真を見る
「これは?」
「それは、真ん中のおばあちゃんが米寿だからって
息子や娘や孫もみんな集まって撮ったんだ」
「服が普通だ」
「別に正装じゃなくていいって、このばあちゃんが言ったんだ」
どれが、娘でどれが孫なのかさっぱり分からないけど
「みんな、笑ってる」
ただ、笑ってるだけじゃない。大爆笑してるみたいだ
「確か、誰かが面白いこと言ったんだよな。その瞬間だ」
「これも、小さな幸せ?」
「かもな。
でも写真を受け取りに来たとき、
ばあちゃんは死んじゃってたな」
え…
「そう、なんだ…」
話を聞いてまた、写真を見た
たった一枚の写真なのに物語がある
この写真に映る人たちも
もしかしたら、帝国湯に来たことがあるかもしれない
タイミングが良ければ、出会えてたのかもしれない
俺だって
あの日、散歩しなければ
今、ここにはいない
それぞれの物語を持つ人達が
入れ替わり立ち替わりで通う場所
小さな町なのに壮大さを感じる