原田さんが「ありがとう」と言ってトイレに行くと、かなちゃんはリビングの方に戻って行った。


「颯斗は?問題集でもできたの?」


兄ちゃんが作ったと思われる飲み物を受け取りながらかなちゃんはソファーに座る。


兄ちゃんはダイニングテーブルのイスに座ってケータイをいじっていた。


「…あぁ、うん。でもわかんないとこあってさ…」


そう言うとかなちゃんはふっと笑った。


「後で行くから、もう少し待ってて」


平然を装って言ったつもりだろうけど、かなちゃんはさっきより弱々しい声でそう言った。


「…うん、わかった」


返事をして扉を閉める。


昔からそうだったけど、俺たち3人の中でも壁はある…気がする。


俺は2人より2歳年下で、俺にとってかなちゃんは姉ちゃんみたいな存在だった。今だってそう、俺の姉ちゃんみたいな存在。


だから、たまに“幼馴染み”として見ると壁を感じる。


でもこれは、俺が壊しちゃいけない壁なんだとどこかで思っているのも確かで、この壁が嫌だと思ったことは一回もなかった。


ベルリンの壁みたく向こうが見えないわけでもなかったし…。


俺たち3人の間にあるのは透明な壁。というより、白線みたいな感じ。


これが当たり前だと思ってる。


俺たち3人は“幼馴染み”。でも、かなちゃんは俺の姉ちゃん。


2人に何があったか知らないけど、たぶんかなちゃんたちなら教えてくれる。


今は俺が知らなくても良いことだと思う。


滅多に見せない弱っているかなちゃんの傍に居るのは兄ちゃんが適任だろう。


そう自分に言い聞かせて階段を登る。


線香の香りだけが頭にこびりついて剥がれなかった。


颯斗sideおわり