「私、数学のここがイマイチわからない」


そう言う有理に宮田くんは早速教えに入った。


「ここ?ここはね…」


私の予想ではデレデレしながら教えると思っていた宮田くんは、思いのほか真剣に教えていて驚いた。


「あ、あの…私も数学わかんないから教えてもらってもいいかな…」


真子は吏紗に教えてもらうようだし…暇だ。


「あぁ、良いよ…花奏、オマエは?数学わかんの?」


「ん?あぁ…そこなら理解できてるから良いよ。私は今年受験生の颯斗くんでも相手してるから」


そう言って私は真子の問題集を見ている颯斗を呼んだ。


「そ、じゃあ俺原田に数学教えるから終わったら生物教えろよ」


吏紗はそう言って颯斗と場所を入れ替わった。


それが人に頼む態度かコラ。


胸中で文句を言いながら、私が受験生だった頃の問題集を出して颯斗に渡した。


「えー…俺も勉強すんのー?」


「アンタだけなにもしないとか暇でしょ。受ける高校決めてんの?」


「うん、兄ちゃんと同じとこ」


私たちと同じ高校か…じゃあこの問題集でできるな。


「うちの高校、特待クラスは難易度高いけど普通科ならそこそこの学力あれば通るから。これやっときゃ合格出来るよ」


出来たら呼んで。そう言って部屋を出ようとした私を吏紗が呼び止めた。


「なぁ」


「ん?」


「トイレ借りてい?」


「あぁ、良いよ」


私は一足先に部屋を出ると、「原田ごめん、ちょっと待ってな」と言って部屋を出てきた吏紗と一階に降りる。


「すぐそこトイレね」


階段を降りてすぐの扉を指さして私はリビングの方に歩いていった。


リビングダイニングを通り過ぎて和室に行く。


家に人を呼ぶなんてことをしなかったからか、いま私以外の人が家にいることに落ち着かない。


去年だって、何をするわけでもなくただ1日ギターを弾いて過ごしていた。


母さんの前で…ずっと…。


「花奏?」


名前を呼ばれたことに弾いていた手を止めて振り返ると吏紗が立っていた。


「……………」


吏紗の表情が、固まった。