颯斗の震える方を緩く抱きしめて泣き止むのを待つ。


『会いたかった』


吏紗には一言、『バイバイ』と言ったのは覚えてる。


颯斗には、一言も言わずに引っ越した。


『颯斗な、オマエが引っ越したって聞いたときすげー泣いててさ。宥めるの大変だったんだよ』


いつか、みんなでお昼を食べた帰りに吏紗が言ったのを思い出した。


「…ごめんね…ごめん」


謝るしかできなかった。


「…グスッ…かな、ちゃん」


「ん?」


「…もう、いなくなんない?」


私の胸に顔を押し当てたまま、颯斗は震える声を抑えて言った。


「もう、いきなり俺たちの前からいなくなんない?」


「うん、もういなくなんない」


そう言って、昔みたいに背中をポンポン撫でながらあやす。


吏紗とケンカしたって泣きながら家に来たり、遊んでたら転けてケガをして泣いたり、いつも吏紗があやそうとする手を払って私に抱きついてきた颯斗。


変わんないな…泣き虫め。


見た目は変わったのに、中身はまったく変わってない泣き虫な颯斗だ。


「…えーっと、なにやってんの」


颯斗の頭をいじりながら、颯斗が離れてくれるのを待っていたら声をかけられた。


「あ、宮田くん。どしたの」


気まづそうに立っている宮田くんに聞くと、宮田くんは私と颯斗を見て「あー…」と吐く。


「オマエも来なきゃわかんねぇとこあるのに出来ねぇ…」


「あぁ、ごめん。すぐ行く」


「おう」


宮田くんが出ていくのを見ながら颯斗の肩を揺する。


「颯斗、部屋行くよ」


「…かなちゃん」


「ん?なに?」


「かなちゃん、身長も小さいけど、胸も小さいね」


「……………は?」


なんだこいつ。引っぱたいてやろうか。


と思って颯斗の背中に回してた手を下ろすと、颯斗が顔をあげてこっちを見た。


「…へへっ。じょーだん。行こ」


そう言って笑うと、私の手を引いて2階に上がる颯斗。


「颯斗」


「なに?」


部屋のドアを開けようとしていた颯斗を呼び止めると、颯斗は不思議そうな顔して私を見た。


「つぎ、あんなこと言ったらもう口聞いてやんない」


ニッコリ笑って言うと、颯斗はしばらく黙ったあと、ニッと笑った。


「…あれは冗談だって言ったでしょ。あ、でも俺はかなちゃんくらいの大きさが丁度いいかな」



そう言うと私より一歩先に部屋に入った颯斗。


私も溜息を一つ吐いて部屋に入る。


颯斗の見た目は吏紗に少し似てる。でも、中身は幼い頃のまま泣き虫だった。そして、変態だった。