「じゃあ、お口直しにこれでも食べて」


侑也がかばんから取り出したのはクッキーが数枚入った透明な袋だった。


「いや、いい」


吉崎君は即座に断った。


「気持ちはありがたいけど、クッキーは甘くてあんたの劇甘コーヒーのお口直しにはならない」


侑也は途端に悲しそうな顔をした。


「そっか。食べないんだ。これ、僕が作ったのにな」


ものすごく切ない瞳で吉崎君を見つめる。


「捨てられた子犬みたいな目でこっちを見るな!」


「え?子犬?子犬がどこかにいるの?」


侑也は店の中をワクワクした様子でキョロキョロと見渡した。


「ちげぇよ!あんた、わざとか?そうでないなら、とんだ天然だな!」


吉崎君が怒った様子でツッコミを入れている。


「あはは、ありがとう」


「褒めてねぇ!」


ニコニコ微笑む侑也と、不機嫌そうに眉をひそめる吉崎君。

なんだかんだでこの2人、仲良しなのかもしれない。


「ていうかあんた、器用なんだな。クッキーを作れるなんて」


吉崎君は目を逸らして言った。


「僕は甘いものが好きだからね。市販のお菓子は甘さが足りないから、自分で作っちゃうんだよ」


侑也は笑った。


「なんでもそうだよ。甘ければ甘いほど、美味しいと感じるんだ。

そう、何であってもね」


にっこりと目を細めて笑っていた。

吉崎君はしばらくの間呆気にとられたように黙っていたが、ハッとして言った。


「ちょっと待て。ということは、あんたの作ったクッキーは市販のクッキーよりもずっと甘いってことだよな?

やっぱり全然口直しにはならねぇじゃねぇか!

なんでんな甘いもんを口直しにって勧めんだよ!」


「食べてほしいなあって思って」


「なら普通にそう言えよ!」


吉崎君と侑也のやり取りを見ていると、亜美が耳打ちした。


「あの2人、意外と仲がいいのね」


「びっくりだよね~」


にっこりほほ笑んで天然な発言をする侑也に鋭いツッコミを入れる吉崎君。

正反対と言ってもいいほど、全く性格の違う2人なのに。


「違うからこそ、気が合うこともあるのかもね」


目を細めて微笑んだ亜美の言葉に、私は頷いた。