「へぇ、吉崎君ってブラックで飲める人なのね」

亜美が関心したように言った。


「甘いもん、そんな好きじゃねぇから」


うん、なんだかそんな感じがする。

こんなに仏頂面でいつも愛想が悪いくせに甘いものが好きだとか言われたら、そのギャップにどう接したらよいか分からなくなるよ。


「でも、ミルクすら加えないのね。よくそんな苦いものが飲めるわね」


亜美は信じられないとでも言うような口調で言った。

甘党の亜美からしたら信じられないことなんのだろう。


吉崎君は亜美の言葉を流して、珍しく自分から侑也に話しかけた。


「あんたはミルク入れるんだな。…あんなに、沢山」


吉崎君は侑也の瞳の奥をのぞき込むように鋭い視線を向けた。


「あはは、まあね。僕は甘いものが好きだから」


侑也は穏やかな笑顔を浮かべて、激甘コーヒーを差し出した。


「飲んでみる?」


渋々といった様子で吉崎君は侑也のコーヒーを受け取った。

コーヒーとミルクが混ざった穏やかなその色は、侑也の髪色にも似ている。


一口含んだその瞬間、吉崎君は顔をしかめた。


「どう?おいしい?」


そして何も言わずに自分のブラックコーヒーを飲み、叫んだ。


「おいしくはねぇよ!」


一刀両断だった。


「美味しいか美味しくないかの前に、まず甘過ぎんだよ!

ミルクも、砂糖も、入れすぎだ!限度を超えてるじゃねぇか!

喉が焼けそうなほど甘い、胸やけしそうだ!

あぁ、もう、甘ったるいんだよ!

一体どれだけの量のミルクとシロップを入れてんだよ、あり得ねぇ!」


最早コーヒーじゃねぇ、と吉崎君は叫ぶように言った。


「吉崎君は甘党ではないんだね」


侑也は残念そうに眉を下げた。


「ああ、その通りだ!甘いもんは苦手だってさっきも言ったけどな!」


吉崎君は不快感丸出しだ。


仕方がないことかもしれないと思った。

私も前に侑也の飲むコーヒーを一口もらったことがあるが、あれは本当に甘かった。

砂糖をなめているんじゃないかと思うほど甘かったことを覚えている。


甘いものがほどほど好きな私でさえ、あまり飲みたくないと思うほどの甘さの飲み物だ、甘いものが苦手な吉崎君には地獄だったかもしれない。