「お待たせしました。コーヒーとアイスティーになります」

店員さんが注文していたものを持ってきてくれて、沈黙は破れた。


「ありがとうござます」


お礼を言いながら受け取る。


このお店では自分で注文した飲み物にミルクやシロップ、蜂蜜などを加えることができ、その量も自分で調節することができる。


亜美はアイスティーを受け取ると、そこにミルクとシロップを加えた。


ストローでかき混ぜると、アイスティーの色とミルクの白が渦を巻いて交わりあってやがて一つの色になった。


落ち着きをくれる穏やかな琥珀色。


「亜美、結構入れるね…?」


私の発言に「そうかな?」と亜美は首を傾げた。


しかし亜美が投入したシロップの量は通常の3倍。


かなりの甘々ミルクティーとなっている。


「亜美って甘党だよね」

「甘いの、おいしいじゃない」


確かにそうだけど。

私も甘いものは好きだけど、ここまでではない。


「甘党と言えば、侑也も甘党だよね」

「侑也は私の比ではないわよ」


亜美と2人、侑也の方を見た。


コーヒーを受け取った侑也は亜美同様、当然のように、流れるように、造作もなくミルクと砂糖を加えた。

しかしその量は尋常ではなかった。

ミルクは通常の5倍、砂糖は通常の8倍。

甘いコーヒーどころか、ほとんどコーヒー牛乳だと思う。


アイスティーを頼んだ私はと言えば、ストレートのまま飲むことにした。

レモンティーも、ミルクティーも、砂糖を入れた甘いアイスティーも、どれも好きではあるけれど、今日の気分はストレートだった。


ちらりと自分の前に座る吉崎君を見た。

吉崎君もアイスコーヒーを頼んでいた。


「えっ、ブラック?!」


吉崎君はなんとブラックだった。

ミルクも砂糖も何も加えていない。


「んだよ」


不機嫌そうに眉間にしわを寄せて睨まれた。


「い、いや、なんでもないッス…」


思わず委縮してしまう。

なんだ、この威圧感!


眉間にしわを寄せてブラックコーヒーを飲んでいるなんて、イメージしていた通りの吉崎君だと思った。


吉崎君がミルクやシロップを加えてマイルドなコーヒーを飲んでいたら、それはそれで面白かったのにな、なんて思ったのは秘密だ。


バレたらどんな仕打ちにあうか、想像しただけで背筋が凍る。