「……実加さん?」

「え?」


後ろを振り向くと、薄暗がりの中に泰明くんがいた。

コンビニの袋を持ったまま驚いた顔で立ち尽くす彼は、あたしの涙に気づいてもっと驚いた顔をする。


「どうしたんすか。何かあったんすか?」

「うん。でも大丈夫」

「泣いてるのに?」

「うん。泣くのも時には必要なんだよ」


知らないの? っていう雰囲気で告げると、泰明くんは言葉に詰まって頷いた。


「……そうなんだ。なるほど」


その真面目くさった口調に、あたしは思わず吹き出した。


泰明くんは面白いなぁ。
なんだかすごく癒やされちゃう。


「あのね、今彼氏と別れたんだ」

「え?」

「ずっと縛りつけてたから。大切な人なのに」


淡々と語りながら、あたしは泣き笑いのようになってしまった。

泰明くんは、子犬がシュンと尻尾を垂れている時のような雰囲気を漂わせつつ、アパートの階段のところに座った。


「ねぇ実加さん、梅酒出来たの?」

「え?」


突然思っても見なかったことを言われて、あたしは目を丸くする。