「人は変わるんだよ。変化するの。……仕方ないって、分かってる」
「俺、……浮気はしてない」
「分かってるよ。でも我慢してる。別の人に向かっていく気持ちを必死に否定してる……違う?」
「……ごめん」
「いいの。だいぶ前から気づいてたの。言いだすのこんなに遅くなっちゃってごめんね」
泣かないで。
今まであたしを支えてくれたこと、本当に感謝してるの。
「……さよならだから乾杯しよ?」
「実加」
「大好きだったの。嫌な思い出にしたくない。……大丈夫。あたしもすぐ過去にできるわよ」
「俺も、大好きだった」
亘は泣きそうな顔であたしをギュッと抱きしめた。
「今でも好きだ。……家族みたいに」
「……そうね。それはきっとあたしもだわ」
大丈夫。
あたしはもう壊れない。
自分を支える足元に、たくさんの愛情があったこと、知ってるもの。
あなたがくれた愛情を栄養にして生きてきた。
それはあたしの地面に深く優しくしみ込んでいて。
だから思い出だけは残しておいてね。
それに浸るくらいは良いでしょう?
あなたの優しい思い出は、いつか新しい栄養を得るまで、あたしを支え続けるに違いないから。
「……乾杯しよ」
「ん」
涙を拭って囁く。亘も同じようにグラスを持ち上げた。
あなたに会えて嬉しかった。
あなたに会えて幸せだった。
あなたに、誰よりも幸せになってほしい。
グラスをカチンと泣かせて、一気に梅酒を飲み干した。