「あれ、前髪また切った?」
久しぶりに部屋を訪れた亘がそう言った。お盆のあとからとても忙しそうで、九月に入ってから会うのは初めてだ。
「うん。似合う?」
「似合うよ。でも前は気に入ってないみたいだったのに」
「慣れたらこれもいいなぁって思えるようになったの」
あたしはいつものように夕食を並べて、彼が座るのを待つ。
「九月に入っても暑いね。大変でしょ、仕事」
「うん。でも楽しいかな、俺仕事好きかも」
「そっか」
「……うん」
お仕事の話になるとなんとなく会話がしぼんでしまう。
だけど、今のあたしたちに他の話題もない。
互いの間の距離を亘はずっと測りかねているのだろう。
「ね、梅酒ができたんだよ。乾杯しよ」
「え?」
「前に作るって言ったじゃん」
「そうだっけ」
「そうだよ。きっと美味しく出来てる」
有無を言わさず亘を座らせて、コップに梅酒を注ぎ込む。
あたしのは水割りで、亘のはソーダ割り。
薄い琥珀の色合いがとても綺麗で、あたしはにっこり笑う。
「どう?」
「うん。……うまい。すげぇな。自分で作れるんだ」
「うん、だから。……もう大丈夫だよ」
「え?」
「亘はずっと、……あたしを心配していてくれたんでしょ」
亘の口元が引き締まり、あたしをマジマジと見つめる。