「酔って転ばないでね」
「はは。そんな訳あるかよ」
「……気をつけて」
「帰ったらまた電話するから」
トントンと音を鳴らして、亘は階段を下りていく。
その音を聞きながら、路上教習の話をし忘れた事を思い出した。
追いかけて話しても迷惑だろう。
後で電話で……話す頃にはきっと忘れてしまっている。
一緒に住めれば良かったなぁ、なんて思う。
亘は今、会社の寮に入っていて、ここへはわざわざ駅を二つ乗り過ごして来なきゃならない。
同じ寮には同期や会社の人が沢山いるらしく、泊まったりすると冷やかされてしまうのだそう。
だから今までより会えなくなるのも仕方のない事だ。
分かってるのに、……少しだけ寂しいと思ってしまうのも事実だ。