「ナツは練習中とかここで息抜きしてるときだと、4番の俺より打率いいぐらいなんだ。……まあ、なぜか公式戦になるとからきしダメだけど」


横峰くんの苦笑を含んだ声を聞いている間も、ナツくんはボールを軽々と打っていた。

意外だし、なんだか不思議だなぁ。
こんなにもよく打てる人でも、試合では打てなくなっちゃうなんて。

そう上手くはいかないなんて、それだけ野球が難しいってことなのかもしれない。
わたしが想像しているよりも、ずっと。


「あっ、そうだ。茉理、今日も俺の方がヒット数多かったぞ! また俺の勝ちだな!」


頭の後ろで手を組みながらナツくんのことを一緒に見ていた横峰くんが、ふと思い出した様子で言った。

得意気に笑っている彼に、茉理ちゃんは渋い顔をする。


「いちいち報告されなくても知ってるわよ。ちゃんと数えてたし。……あーあ、今日も負けか」

「だから言っただろ? 俺に勝つのは百年はえーんだって。今日も約束通り、あとでなんかおごれよな。俺が勝ったんだし」

「……はいはい」


返事の前に茉理ちゃんは小さく舌打ちしていたけど、きっとわたしにしか聞こえていなかっただろう。
横峰くん、すっかり上機嫌で自分の世界に入り込んでる感じだし。

……ていうか茉理ちゃん、横峰くんとの勝負に勝てたことあるのかな?

いくら球が違うといっても、見ている限り横峰くんの方が明らかにヒット数は多かったけど。