「ふふっ、見とれちゃってるじゃん」

「だってー……」


わたしの様子を見て、茉理ちゃんは小声でからかいながら肘でつついてくる。

照れを隠すように肘でつつき返すと、茉理ちゃんの視線がずっとある一点に向けられていることに気づいた。

視線の先を追うと、そこでは横峰くんがバッティングをしている最中だった。

横峰くんならもっとたくさん遠くに打てるのかなと思っていたけど、よく見るとあまり飛んでいないみたいだ。

でも確実にバットにボールを当てていて、その姿はナツくんよりも板についている感じがする。

ナツくんと横峰くんの姿を交互に見ながら茉理ちゃんに尋ねた。


「ねぇ、横峰くんって調子悪いの? あんまり飛んでないみたいだけど」

「ううん、別に調子は悪くないよ。飛んでないけど、あれでいいの。ここでのバッティングは、あくまでも息抜きだし。上手く飛んでないように感じるのは、球が違うからじゃないかなー。バッセンの球って、普段使ってるやつとは違うはずだから」

「へえ、なるほどー」


そっか。球が違うからいつもと同じように打っても、飛び方は違ってくるんだね。

……でも、あれ?

軽々とボールを遠くへ放っているナツくんを見て首を傾げる。


「ナツくんは、球が違ってもよく飛ぶんだね」

「あいつはなぜか、ここでだとよく打てるんだよ」


わたしの疑問に答えた声は、茉理ちゃんのものより低かった。

驚いてナツくんから視線を戻すと、茉理ちゃんの隣に横峰くんがいる。

どうやらよそ見をしている間に打ち終えて、ゲージから出てきていたらしい。
しかもちゃっかり、わたしたちの会話に混ざっている。