ナツくんの優しさがあるだけで、打てそうな気がしてくるから不思議。
ナツくんはわたしのお辞儀に、また笑みを返してくれる。
ナツくんの笑顔を間近で見られるなんて、なんて贅沢なんだろう。
数日前のわたしは、こんな幸せな瞬間を想像してなかったよ。
「まずはバットを構えて、振ってみるところから始めようか」
「うん」
ゲージ内に入って打席に立ち、貸し出し用のバットをナツくんから受け取る。
自分で試しに構えてみた。
「……こんな感じかな?」
「そうそう。でも、もう少し脇しめようか」
「こう?」
「うん、そうだね。いい感じ。試しに振ってみてくれる?」
「わかった」
えいっと。
ナツくんに見られていることに緊張しながら、バットを勢いよく振ってみる。
金属バットは想像よりも重くて、振るとその重さを余計に感じた。
振った勢いで身体を持っていかれる。
よろけたけれど、派手につんのめることは何とか免れた。
「スイングはまあまあだね。ボールさえ当たれば、結構飛ぶと思うよ。あとは、まあ……」
一緒にゲージに入り、少し離れた場所からわたしのフォームを見ていたナツくんが、考えこんだ顔で近づいてくる。
そして、ぽんっとわたしの肩を叩いた。
ナツくんを見ると、いつもよく見せてくれる笑顔だった。
「肩の力抜こうな。すごく緊張してるみたいだけど、大丈夫だから」
「あ、うん……。あり、がとう」
ゲージの外に出ていくナツくんの背中に送った言葉は、途切れてかすれてしまっていた。