「あら、ごめんね。」
謝る気があるのか、ないのか…。
思わず苦笑する。
「それより、あんた!その着物、似合うじゃないか!」
そう褒められて嬉しくなる。
「…………ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
ニッコリ笑って、言われるとやっぱり感じる安心感。
満さんはジーと私を見た後、ニヤリと口元を歪ませた。
「ねえ、あんた。このまま店で働かない?」
「………え?」
話が唐突すぎてついていけない。
「だってさ?記憶がないって事は、帰る家もない。」
「はい……。」
「しかも、あんたはあたしに助けられた。」
「………まあ。」
「理由は十分だと思わないかい?」
少し返答に困っていると。
「もちろん、ただでなんて言わない。住む場所も貸すし、食事だって付けるよ!」
なんとなく、この人の頼みは断れない。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
そう聞くとパアッと表情が明るくなった。
「こっちからお願いするよ!」
「ありがとうございます。」
私はゆっくり頭を下げた。
いつの間にか、この時代に来てから2カ月が経った。
変わった事といえば………。
私が柏木屋の看板娘になった事。
満さんに私がどこから来たのか、今までどんな事があったのか話した事。
その時、満さんは「頑張ったなあ。」と言って泣いてくれた。
そして、満さんのことを私は“母さん”と呼ぶようになった。
あと………。
「じゃあ、行ってくるね。」
「本当、気をつけろよ?」
「大丈夫だって!母さんは心配性だね。」
肩を竦めて笑うと満さんは大袈裟に頷いた。
「そりゃ、心配だよ。あんたはあたしの可愛い娘だからね。」
“可愛い娘”。
それだけの言葉で嬉しくなる。
「ありがとう。」
そう言って、地を蹴った。
パッと屋根の上に飛び乗る。
赤を靡かせ、月の光を浴びながら走った。
隣では、いつもと同じように鈴が走る。
私は昼、寒色系の着物を着て、夜は赤や黒の着物を着る。
それは、昼と夜で印象を変えて同一人物だと気づかれないため。
ある程度広い所に来ると月を見上げた。
その場に腰掛け、ゆっくりと歌う。
「……淡い色は星の色」
思い出を抱き締めて。
「そう言ったのは誰だった?」
大切な貴方達を思って。
「星の数ほど思い出はある」
この時代は好き。
私を、私の声を。
「でも、」
利用しようとする人は1人も居ない。
「貴方はもう………。」
何かの気配を感じる。
どう考えても、悪意を持った気配。
1人や2人じゃない。
少なくとも、20人はいる。
サッと地面に降り立つ。
「私に何か、ご用?」
先手を打って話し掛けた。
「お前か⁉︎俺らの仲間を殺したのは‼︎」
はあ?知らない、そんなこと。
「いちいち、肉塊にした奴なんて覚えてる訳ないじゃん。」
そう言い放つと男達は刀に手を掛けた。
「おのれ!死ねぇぇぇ‼︎」
私に向かって襲いかかってくる奴ら。
そいつらに向かってニヤリと笑い掛けた。
「あんたらが先に刀抜いたんだからね?」
そう言うのと同時に両手で赤い柄を握る。