「で、こっちが。」
沖田さんが隣の男前さんを指す。
男前さんは自ら、口を開いた。
「土方副長の小性、内藤 隼人です。」
血の気が引くとは、このことかと他人事のように考える。
きっと、周りから見たら真っ青になってるんだろうな。
だって、ほら
「大丈夫ですか?」
奥沢さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
無理矢理、口元を上げ笑みを作った。
「……は、はい…。」
こんなに動揺したのは、久しぶり。
それを隠すように殊更、丁寧に頭を下げた。
「こんにちは。先日、壬生浪士組に入隊しました。蓮といいます。」
「よろしくお願いしますね!」
「よろしく頼む。」
奥沢さんと内藤さんは、それだけ言うと沖田さんに挨拶をして帰って行った。
私の心に大きな不安を残して……。
〜蓮美side〜
あの後、少し母さんの話をしてすぐに屯所に戻ってきた。
正直言って、何を話して、何をしたかなんて覚えてない。
ひたすら、彼らの存在を考えていた。
内藤さんの名前は、後の土方さんの偽名。
しかも、あの顔は後世に伝わる写真と瓜二つ。
そうなると、奥沢さんの容姿も関係あるようにしか思えなくなってくる。
ポニーテールに低い身長、目の寄ったヒラメ顔。
沖田 総司として伝わる顔、そのもの……。
そして、奥沢とは池田屋事件で死ぬはずの人……。
もしかして、私は彼らの運命を変えてしまったのかも。
私がこの時代に来たことによって、歴史に歪みが生まれた可能性はある。
本当だったら、彼らが“土方 歳三”と“沖田総司”なのかもしれない。
そう思ったら、怖くなった。
自分の存在そのものが。
私の行動1つで人の命が左右される。
その事実が。
考えても、どうするのが1番いいのかなんてわからなくて。
外に出れば、少しはスッキリするのかな?
そう思って縁側に出た。
ポカポカと暖かい日が私に降り注ぐ。
こんな私にも、太陽は同じように照らしてくれる。
だから、太陽は嫌い。
こんな私を焼いて消してくれたら、いいのに……。
縁側に座って、目を閉じる。
そろそろいいよね?
さっきから感じる視線。
「2人とも、出てきなよ。」
とりあえず、こちらを睨む2匹の犬に声をかけた。
でも、一向に出てこない。
声を掛けられたのに、気付いてて出てこないのか。
声を掛けられたのは、自分達じゃないと思ってるのか。
仕方ない。
秘密兵器の出番か。
重い腰を上げると、あからさまにビクッとする気配。
それを気にせず、部屋の押入れからある物を取り出す。
そしてもう1度、縁側にでた。
持ってきたのは昨日、母さんの所で作って来た蒸しケーキ。
材料さえ、あれば簡単に出来るお菓子。
可愛いものは、嫌いじゃない。
あの2人を餌付けする為だけに持ってきた。
それに、これであの2人以外も釣れるだろうし。
「大人しく出てきた人には、甘味を上げる。」
あえて、誰とは言わない。
炙り出せるだけ、炙り出す。
その言葉に一瞬、迷いを見せる気配。
よし、あと一息。
「しかも、未来の甘「ちょーだい。」」
ほら、沖田さんが食いついてきた。