(誰もいないわね…)

(まだ陛下のことは気付かれていないようですね。)

響く靴音に気遣いながら、二人は息を潜めて足早に通路をすりぬけ、長い階段をかけのぼった。




「ここまで来たらもう大丈夫です。」

ようやくターニャの部屋の近くに辿り着いた二人は、すれ違う者達にもにこやかに微笑みかけた。



「そうね…
私は、庭に出た後、あなたの部屋で話してたことにしましょう。
あなたの部屋の様子を簡単に教えて下さる?」

シスター・シャーリーは、ターニャに部屋の様子を話して聞かせ、ターニャは気になることへの質問やアイディアを交えながら二人は打ち合わせを終えた。



「そういえば、ターニャ様…大臣は、あなたがかつらや帽子をかぶられていたせいか、なにやらとても怪しんでおりました。」

「そう…私は変装だけではなく、気配を消して来たつもりだったんだけど、それでもやはり感じ取ったのね…
だったら、こう言ってちょうだい。
メアリーは、ぼやで髪の毛を焼き、顔にもちょっとした火傷の跡があったと。
それと、そのぼやのことを気にして、クートゥーの大聖堂でこのところ毎日祈りを捧げていたと…」

「そう言えば良いのですね?」

ターニャはゆっくりと頷いた。



「私は、あいつとは逆の属性の魔術を使います。
きっとその気を感じ取ったのだと思うのよ。
だからそう言っておけば大丈夫。
……それより…
今夜は、ゆっくりするのですよ。
くれぐれも考え事はしないこと…
あなたも明日は出席するように言われているのでしょう?」

「ええ…
大臣は、明日、重大発表をするつもりですから、大臣に忠誠を誓った者はほとんど出席させられます。
もちろん、皆様方のように踊るわけではありませんが…」

「そう…では、早く報告を済ませて眠ってしまいなさい。」

シスター・シャーリーは力なく頷くと、ターニャを見送ったその足で、大臣の部屋を訪ねた。
大臣の部屋が近付くにつれ、重くなる足を無理矢理に引きずりながら…