「わかりました。
では、お話致しましょう。
皆様には信じられないようなお話かも知れませんが、どうぞ最後までお聞き下さい。
……まず…ルシアン様は人間ではございませんでした。」

ターニャの率直な言葉に、部屋の中には押し殺したざわめきが広がる。



「しかし、大臣とは真逆の方…ルシアン様は天界に住まう方だったのです。」

その場にいた者達は驚いた顔を見合わせた。



「私がそのことを知ったのは、彼女が搭に入った後の手紙だった。
……信じられない反面、符合することもたくさん思い出され、私は酷く困惑したよ…」

ラーシェルの独り言のような呟きに、ターニャは軽く頷く。



「大臣はルシアン様の正体に気付き、彼女を騙しました。
無力な老婆に姿を変え、うまいことを言って言いくるめ、天の綻びを大きくし、そしてそこから落ちて来る天界人を捕らえようとしたのです。
その寸前に、私はご相談を受け、あの搭を建てることを提案しました。
ルシアン様はご自分の命を賭けて、天界の人々を救う道を選ばれたのです。
ルシアン様が、あの者と出会うことがなければ…きっと今もずっとお幸せに暮らされたのでしょうけど……これもルシアン様の運命だったのかもしれません。」

ターニャはそこまで話すと、瞳を潤ませ俯いた。



「だから、ジュネ様やラーク様には翼があったのですね!」

「その通りです。
私はその場にはいませんでしたから詳しいことはわかりませんが、お母上を失った深い悲しみのためか、もしくは空からなにかの作用があったのか、なんらかの原因によってお子様達の体内に隠されていた翼が飛び出したのでしょう。」

「……そうだ…!」

皆と同じようにターニャの話を聞いていたラーシェルが、不意に声を上げ、皆の視線がラーシェルに注がれた。



「その少し前に、あの大臣を雇ったんだ。
もしかしたら…ルシアンが…いや、天界の者がそれを心配して二人の翼を…」

「……そうですね。そういうこともあるかもしれません。
大臣は天界人を諦めなかったのです。
空の漏斗が塞がったのを知り、お子様達に目をつけたということは十分考えられることです。
しかし、そうだとしたらまたしても大臣は獲物を取り逃がしてしまったことになります。
この国を狙ったのも、ここにいればまたいつか天界人と繋がることが出来ると考えたのかもしれません。
あいつはとても執念深い者ですから。」

ターニャの現実離れした話は信じがたいものではあったが、嘘を吐いているようにも思えず、皆の頭は混乱を極めた。