猫はどこかへ行ってしまった。

「またね。」

目で見送った。
そして、高宮のほうに向き直った。

「な、なに?どうしてここが分かったの?」

「別につけていたわけではございません。咲羅様の姿が目にうつったもので。」

「………。」

「敬語が気にくわなかったのですか?普通に話しましょうか?」

「別にどっちでもいいよ。それより、私はもう降りるね」

すると、少し強い風が吹き、油断していたこともあって足がもつれた。
転けると思ったが、何か強い力に引っ張られた。

とっさに振り返ると

「大丈夫か?」

高宮がまっすぐ見つめていた。その声はとても優しかった。

「ぁ………。うん。」

私はふいっと横をむいた。

「俺、なんかしたか?」

「はい?」

「なんか、お前から嫌われた気がする。やりすぎたよな。」

掴んでいた手が離れた。

「な、何言ってんの?」

「俺、お前から離れた方がいいか?」  

この言葉には心が痛んだ。
何だろ……これ……。とは思っていたが、それより返事の言葉を探すのに必死だった。

「俺、やることあるから行くな。」

なぜか、私は勢いで高宮の手を掴んでしまった。