「あのね、深瀬くんのことなんだけど、よく聞いていてほしいの」


「はい、分かりました」


私は大きく深呼吸をすると、少しため息を吐き捨てた。

聞く耳を持つのは、かなり決意を固めなければならない。

その話が例え、簡潔しているとしても…
その話が重要であるとしても…


何事も受け入れる覚悟をする。


一語一語眉を潜めながら真剣な面持ちで、話を手探り状態になりながらも、夏海先生の話にのめりこんだ。



「実は深瀬くんのお母さんは、仕事疲れの過労で倒れられて、今都内の病院に入院していてね、それ以前に深瀬くんのお母さんは、母親一人で、深瀬くんをここまで育ててきたの。

深瀬くんのことを大事に可愛がって、いくら辛くても、いくら弱音を吐きたくても、俺には愚痴一つ溢さなかったって 深瀬くんが言ってた。

深瀬くんのお母さんが無理して働いていたのには訳あって、この学校に深瀬くんを通わせる学費の為だったの

それを知った深瀬くんがある日…

"俺なんかここの学校の生徒なんかじゃない" って、退学届けを学校に持ってきたこともあった


それを止めたのが私であって、それ以降深瀬くんの相談相手になることになったの

もちろん内緒だけど…
美莉亜ちゃんのこととか・・・

でもこれだけは勘違いしないでほしい

私達は本当に何もないし、私が深瀬くんに出来る所はここまで



だから今度は、美莉亜ちゃんが深瀬くんを助けてあげて?


この私が持っているバトンを美莉亜ちゃんにタッチするね」



悠真のお父さんが浮気症で別れて、お母さんと二人暮らしをしているのは、前に悠真が勇気を出して私に話してくれた。



まさかそんなに家計が苦しかったなんて、私知らなかった………


それに悠真がバイトしている理由も、お母さんの為だったんだね。



本当に真の優しい悠真だよ。


私…
悠真が一人もがき苦しんでいるなんて、気づけなかった。

私の大切な人なのに…

泣いて許してもらおうなんて、そんな気持ちは一ミリもない。



早く悠真に会って話がしたい。



悠真に会いたいよ………。


胸の底から込み上げてくる懺悔の言葉。



苦しいよ、悔しいよ、悠真にあんな事を言ってしまった自分に後悔しているよ…



私は自分の気持ちをおしころした。

それから私は…
夏海先生が何で私にバトンを受け渡したのかが気になったから、問い尋ねてみた。



夏海先生から返ってきた言葉に思わず私は目を疑う。


夏海先生、おめでとう!





本当におめでとう!