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「はい、これ」

「ん」


頼まれていたものを届けると、こいつは目線を向けるだけですぐ元に戻す。



自分のためのマンションとは違い、物静かな場所にあるこの南雲本邸は、彼のーー南雲結衣の15年間過ごした場所でもある。



一日では回りきれないほどの土地に、西洋のお城をモチーフに作られたこの家は、家というよりも本物のお城のようだった。




「あいつら元気してたか?」

「…お前も同じこと言うんだな」

「同じこと?」

「あいつらも、お前が元気にしてるのかを聞いてきた」

「へぇ…」

「元気って、言っておいた」

「…そうか」



元気、といえば元気なんだろう。



三食の食事に、決められた勉強。

外部との連絡ができないだけで、この家から出ない限りはなんでもしていい。


ただ、見張り付きではあるけれど。



見張りから唯一逃れられるのが自分の部屋にいる時だけで、こいつはほとんど部屋にこもっている。