夏休みが明けてから、1度だけ兄が再び会いに来た。


私はもう逃げなかった。


兄は変わった私を見ても、何も言わなかった。



「よみ、父さんと母さんが…」


「離婚するんでしょ?」

「知ってたのか?」

「うん。お父さんに聞いた。」

「そっか。よみは俺と一緒に母さんのとこに行こう。」


なんで?そんなの母が許すわけない。

礼央くんも分かってるくせに。



「あたしはお父さんの方に行くよ。もうそう答えたから。」


「ダメだよみ。俺と一緒に行こう。な?」


どいつもこいつも。ふざけてる。



あたしはもう、昔みたいに何も言えないだんまりの馬鹿ではなくなっていた。



「礼央くん。なんでそんな意地悪言うの?よくそんな、理子さんと一緒に暮らそうなんて言えるね。」


初めて兄にたてついたかもしれない。


「理子さんはあたしといたら死にたくなるんだよ。あたしがいるから毎日イライラするんだよ。あたしはね、理子さんに嫌われてるんだよ!礼央くんとは違うんだよ。」


兄は何も言わなかった。


代わりに私を抱きしめて、ごめんなと呟いた。



だけど。私はそれを振り払った。



「謝らないでよ。全部あたしが悪いんだから。離婚だって、あたしのせいでしょ?あたしさえいなきゃ、よかったのにね。」


笑って言った。

兄はそれ以上何も言わなかった。