授業中も、大地は何度かその話をしようとしていた。


「あのな、よみ…」

「あ、見て。雨降りそう。今日傘持ってきたらよかった。持ってきた?」

「え、俺は持ってきた……」

「そっか。あたしも天気予報見てればよかった。」


「よみ、あのな、」

「あ、教科書さ、先輩からもらえたから、もう見せてくれなくて大丈夫。ありがとう。」


「よみ…」





私は逃げた。

考えるのが嫌で。





再び先輩に呼び出された時は、もう動揺したりしなかった。


「あんた、まだ柊くんにちょっかいかけてんだって?」


「あぁ、心配ですか?だったらちょっと来てくださいよ。」


先輩を教室まで連れて行き、大地を呼んでやった。


「柊ー?彼女が呼んでるけど。」


大地は目を丸くして、戸惑っていた。




「もう大地って呼んでくれんのやな。」


ぽつりと呟かれた言葉は、聞こえなかったことにした。