10月に入って、少し肌寒くなった頃。


中間テスト初日の放課後だった。



私は保健室に居残って、保健の教科書を丸暗記していた。



「あのさぁ、俺の目の前で丸暗記とはいい度胸じゃねーか。」


「だって保健は丸暗記するしかないじゃん。」


「そんなんより数学でもやれよ。英語とか。主要科目も明日テストだろ?」


「大丈夫。副教科以外は勉強しなくてもできるから。」


「うわー。言ってみてぇよ俺も。」



計算や英文なんて考えれば解けるけど、暗記しかない教科は前日に頭に詰め込むしかない。

2時間かけて保健の丸暗記が終わった。




「よし!先生保健で満点とったらご褒美ちょうだい。」


「満点?てかもう終わり?それで満点とれたら高級ステーキ弁当買ってきてやるよ。」

「ほんとに?約束ですよ。」


「男に二言はない!」




そんなやり取りをしてから、教科書を置きに教室に戻った。



廊下は静かで、話し声は聞こえない。

恐らく残って勉強している生徒はみんな図書室にでもいるんだろう。



1番奥の自分のクラスにたどり着き、扉に手をかけた。



その時、視界の隅で何かが揺れた。