「あー!うめぇっ。あんたも飲みな。」

ぐいっと瓶を傾けてビールを煽ると、川野さんは私に瓶をよこした。



真似して瓶に口をつけると、苦い炭酸のような味がした。


そのすぐ後に、顔がカッと熱くなる。


「酒は初めて?」

私が頷くと、そうかと笑った。



「あんた虐待受けてんだろう。」


突然の言葉に、息が止まった。



「心配すんな。誰かに聞いたわけじゃない。ただあたしも親父に暴力振るわれてたからさ。なんとなく分かんだよ。あんたはあたしと同じ匂いがする。」


綺麗な顔で、さらりと笑った。



「金持ちの家、貧乏な家、アル中のバカがいる家、世の中いろんな家があんだよ。でもね、生まれた瞬間から人生決まってるなんておかしいと思うんだよあたしは。」


海を見つめるその瞳は、とても澄んでいる。


「あたしはあたしのやりたいように生きていく。誰かのために生きるなんて馬鹿らしい。あんたも、あんたのために生きな。あんたを大事に思う人間と、あんたの居心地のいい場所で。そしたら今より楽になんでしょ。」



頬を涙が流れて、自分が泣いていたことに気づいた。




「大丈夫だよ。あたしはあんたが好きだ。」



手のひらで、頭をわしゃわしゃと撫でられた。



大地のよりも華奢で、細くて、でもしっかりとした力強さが確かにあった。